『いいね、新宿夜桜。花よりダンゴ。』
〜オモシロ歯ばなし

<たかのこういち(著)>
<松本隆治(絵)>

「桜が萌えてるねえ」。

「萌えてる?」。

そう「山萌える」というのは春の季語。山々の若い芽が、さあ咲こう、さあ咲こうと、うずうずしてる様子をいう。

「だから今日は、こ の席を予約しておいた」。

ビルの2階、新宿御苑の桜がちょうど目の高さに見える和食店。60代の男性と、テーブルを挟んで30代の女性が二人。畳の席で、満月のように丸窓から、夜桜見物としゃれている。

「家康もこんな風に桜を見たのでしょうね」。淡い緑色のセーターを着た女性が言う。

「信玄もね」。二人は歴女で、60代男性は、元中学の歴史の先生だ。3人は互いにお酌をし、盃を会わせる。

「魯山人だね」。先生が、お銚子を手に取って言う。

「山田さんは、家康。向井さんは、信玄びいきだからなあ」。

「それはそうですよ。国は創れても天下は取下を取るには、それなりの器がなければね。家康にはそれがあったのよ」。山田女子が微笑む。

「いえいえ、器なら信玄よ。最高の戦国武将よ」。先生は、時々夜桜に目をやりながら、ニコニコと二人の話を聞く。

風が吹き、ライトアップされた桜がゆらりと揺れる。いい時間だと、3人は思う。メインの旬の魚がきた。

「家康も、花よりダンゴだったかな」。

 

「汐見先生、虫歯は味覚を鈍らせますか?」私は聞いた。

「虫歯は皆さんが思う以上に怖いですよ。新年度前に治しておきたいですね」。

新宿の歯を守りたい。それが、汐見先生の願いです。