<たかのこういち(著)>
<松本隆治(絵)>
出張、大変ね。
最近、豊洲のマンションに引っ越した女性が言う。
「営業職だからね、仕方ないことよ」と、コーヒーカップを手に、向かい側の女性が言う。東京駅構内のカフェ。
「営業主任か。紀美子は昔から行動派だったものね。結婚も早かったし。出張、泊まりなんでしょ」。
「2泊ね。でも、もう慣れっこ。月に2回行くんだもの。それに秋田と山形だから気楽なの」。
豊洲女性は、独身。出張女性は、結婚して五歳の子どもがいる。二人とも秋田出身だ。小学校から高校まで同じ学校だった。新幹線に乗る前に二人はカフェで会った。久しぶりだった。
「麻衣子だって、劇団で頑張ってるじゃない。女優さんよ、おたいしたものよ」。
「まだまだ、でも、今年は主役やれそう」。
二人は顔を見合わせて微笑む。
一生懸命に自分自身を鼓舞している節もあるが、自分の道をしっかりと生きている自信が漂う。
「出張のときはご主人がお子さんの世話をするの?」
「そうイクメンね。会社が休みをくれるの」。
「さすが上場企業」。
「そういう会社、増えているわ。あ、そうそう、ちょっと電話いい?子どもの歯医者の日だったわ」。
とかくパパは、すべてに無頓着。歯医者の予約をきっと忘れている。
「ご家族皆さんで、気軽にお寄りいただきたいのです。歯は、健康の基本。定期診断が大切です」。
新宿歯科の汐見先生が言った。