新選組副長、土方歳三は箱根にいた。
正しくは、箱根にいるのは、歳三の末裔の土方歳也さんだ。
冨士の麓、強羅の温泉宿でかつての空手仲間と、湯に浸かり、酒を酌み交わし、大声で歌を歌い、旧交をあたためている。
歳也さんは、たしかに写真で見る土方歳三によく似ている。
キリッとした切れ長の目と、意思の強そうな引き締まった口元が、そっくりだ。
楽しい宴は終わり、帰りの小田急線でサプライズは起きた。
「あ、入れ歯がない」。
心地よい二日酔いに仲間三人とビールを飲んでいた歳也さんが叫んだ。
「えっ?」「えっ?」「おいっ?」。
みんなで座席のまわり、床のあたりをさがしまわった。
ない。
「歳さん、口を開けてみろ」。
そう言って歳也の口の中をのぞきこんだのは、近藤さんだ。
「ない、飲みこんだか?」。
大騒ぎしているうちにロマンスカーは新宿駅に着いた。
届け出た土方さんの顔を、遺失物係が呆然と見ていた、ということです。
「うちに来れば、飲みこまない入れ歯をつくります」。
西新宿歯科TOYOクリニック汐見先生が大笑いして言った。